新人スタッフに施術を教える時、私が一番最初に話すことがあります。
それは、
「強くやれば効く、というわけではない」
ということです。
むしろ私は、施術を教える最初の段階では、技術を増やすことよりも、今まで持っていた固定観念を一度外すことを大切にしています。
突然、腕を強く掴まれたらどうなるか
スタッフに説明する時、簡単な体験をしてもらうことがあります。
話をしている途中で、突然スタッフの腕をガッと掴むんです。
当然、びっくりします。
体にも一瞬力が入ります。
そこで、
「今、体に力入ったよね?」
という話をします。
突然強い刺激が入ってきたら、体が身構れるのは自然な反応です。
では、施術はどうでしょうか。
患者さんが、
「痛い」
「怖い」
「これ以上動かされたら嫌だ」
と感じながら受けていたら、同じように体が緊張することがあります。
緩めようとしている施術者の手が、逆に患者さんを身構えさせていることもある。
まず、そのことを知ってもらいます。
施術者の手に力が入っているだけでも違う
これは「痛い施術をしなければいい」というだけの話でもありません。
触り方そのものが大切です。
施術者の手に必要以上に力が入っている。
いきなり強く触る。
患者さんの反応を確認せずに動かす。
こういう触り方をすると、患者さんによっては身構えてしまいます。
反対に、
「この人に触られても大丈夫そうだ」
「この動きは怖くない」
と感じられれば、余計な緊張が少なくなることもあります。
だから私は、
何をするかと同じくらい、どう触るかが大切
だと考えています。
訪問マッサージでは他動運動も行う
訪問マッサージの現場では、患者さんの状態に合わせて他動運動を行うことがあります。
特に高齢者の場合、関節が動きにくくなることで、更衣や移乗などの日常生活動作に影響していることもあります。
だから関節を動かしていく。
ただ、ここでも私は、
「とにかく手で押して、可動域を広げればいい」
とは教えません。
施術者が手だけで押そうとすると、どうしても力比べのようになりやすい。
患者さんが緊張しているところに、さらに施術者が力を加える。
患者さんはさらに身構える。
そして施術者は、
「硬いから、もっと押さなきゃ」
となる。
これでは、お互いに力が入ってしまいます。
手だけではなく、自分の体も使う
だから他動運動を教える時にも、手先だけで動かそうとしないように伝えています。
自分の立ち位置。
重心。
体の向き。
患者さんとの距離。
自分の体も一緒に使いながら、患者さんの反応を感じて動かしていく。
そして何より、
患者さんに「これは危険なことではない」と感じてもらえるような触り方をする。
私はここを大切にしています。
患者さん自身が、
「力を抜こう」
と思っていても、痛みへの予測や不安があれば、無意識に体へ力が入ることがあります。
だから、
「力を抜いてください」
と言うだけでは足りないことがあります。
力を抜けるような触り方を、施術者側が考える必要があります。
麻痺側に触れただけで緊張してしまった患者さん
以前、脳血管障害の後遺症で片側に麻痺がある患者さんを担当したことがあります。
リハビリ病院から退院して、自宅に戻ってきた方でした。
その方の麻痺側の肩や腕を動かそうとすると、かなり強く緊張することがありました。
まだ大きく動かしているわけでもありません。
触れて、これから動かそうとする段階で、体が身構えるような反応が出るんです。
患者さんのお話を聞くと、それまでのリハビリの中で、関節を動かす際に痛みを感じる経験もあったそうです。
もちろん、その経験だけが緊張の原因だったと断定することはできません。
脳血管障害後には、麻痺そのものや筋緊張など様々な要素があります。
ただ私は臨床上、
「また痛いことをされるかもしれない」
という予測や不安も、少なからず関係しているのではないかと考えました。
まず「痛いことをしない」と知ってもらう
そういう患者さんに対して、いきなり可動域を広げようとはしません。
まず、
「これから無理に痛いことはしませんよ」
ということを伝えます。
そして実際に、痛みや反応を確認しながら少しずつ触れていく。
患者さんに、
「あ、これは大丈夫なんだ」
と感じてもらう。
一回伝えたから、それで全部変わるわけではありません。
何度も、
「この人は無理やり動かさない」
「痛かったら止めてくれる」
という経験を重ねてもらう。
私はこれも施術の一部だと思っています。
可動域を出すことだけが目的になっていないか
他動運動をしていると、どうしても数字や見た目に意識が向きます。
昨日より曲がった。
もう少し上がった。
ここまで動くようになった。
もちろん、それも評価の一つです。
でも、患者さんが強く身構れた状態で無理に動かして、
「ここまで動きました」
だけを見ても、それで十分なのかは考えた方がいいと思っています。
患者さん自身が安心して動かせるのか。
余計な力が入りすぎていないか。
痛みを我慢していないか。
その動きが日常生活につながっていくのか。
「どこまで動いたか」だけではなく、「どんな状態で動けたか」を見る。
私はその方が大切だと思っています。
「強い刺激=効いている」ではない
マッサージでも同じです。
強く押されて痛い。
だから効いている。
弱い。
だから効いていない。
そんなふうに単純には考えられません。
もちろん、適切な刺激量は患者さんや目的によって違います。
ある程度しっかりした刺激を使うこともあります。
だから私は、
「強い施術は全部ダメ」
と言いたいわけではありません。
大切なのは、
強さそのものを施術効果の基準にしないことです。
何のために、その刺激を入れているのか。
患者さんの体はどう反応しているのか。
必要以上の防御的な反応を起こしていないか。
そこを見ながら刺激量を考える必要があります。
技術を教える前に、固定観念を書き換える
新人スタッフに施術を教える時、技術はいくらでも後から教えられます。
この筋肉はこう触る。
この関節はこう動かす。
こういう時にはここを見る。
そういう知識も当然必要です。
でも、その前に、
「強くやった方が効く」
「硬いところは力で動かせばいい」
「可動域は広げれば広げるほどいい」
という前提を持ったままだと、その後に教える技術の使い方まで変わってしまいます。
だから私は、施術教育の最初に、まず前提から話します。
患者さんの体と力比べをしない。
触った時に何が起きているのかを感じる。
患者さんが安心して体を預けられる触り方を考える。
その上で、必要な技術を覚えてもらう。
新人スタッフへの施術教育では、私はまずそこから始めています。

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