高齢者の方を施術していて、すごく嬉しい瞬間があります。
それは、
「できなくて困っていたことが、またできるようになった時」
です。
「この前、階段を少し上れるようになったよ」
「久しぶりに買い物に行けた」
「また趣味ができるようになった」
患者さんも、本当に嬉しそうに話してくださいます。
こちらも嬉しいです。
何というか、
「この仕事をやっていて良かったな」
と思う瞬間でもあります。
でも私は、そこで、
「できるようになった。じゃあOKですね」
とは考えないようにしています。
できるようになった時こそ、一度フラットに体を見直す必要があると思っているからです。
「できた」という結果だけでは評価しない
例えば、今まで難しかった動作ができるようになったとします。
その時に見るのは、
単純に、
「できたか、できなかったか」
だけではありません。
どうやってできるようになったのか。
ここを見ます。
安定してできているのか。
かなり無理をしていないか。
力任せに動いていないか。
どこか別の場所で強くかばっていないか。
一回だけではなく、繰り返してもできそうなのか。
そして、その動作を今後続けても大丈夫そうなのか。
「できた」という結果は同じでも、その中身は人によって全然違います。
階段を上れるようになったら、新しいリスクも生まれる
例えば、今まで階段を上れなかった高齢者の方が、少しずつ上れるようになってきた。
これは素晴らしい変化です。
でも、できるようになったからこそ考えなければいけないこともあります。
階段を上れるということは、階段を使う機会が増えるかもしれません。
そうなれば、今までにはなかった転倒のリスクも出てきます。
上りは大丈夫でも、下りはどうなのか。
手すりがあれば安定するのか。
疲れてきた時にも同じように動けるのか。
足をきちんと持ち上げられているのか。
ふらつきはないのか。
患者さんが、
「できた!」
と喜んでいる時に、水を差す必要はありません。
一緒に喜べばいいと思います。
でも施術者の頭の中では、
「できるようになった。では、次に何を確認しなければいけないだろう」
と考える。
この視点は持っていた方がいいと思っています。
できることが増えると、生活そのものが変わる
特に高齢者の施術では、ここが大切だと思います。
できることが一つ増えると、その動作だけが変わるわけではありません。
生活範囲そのものが変わることがあります。
歩けるようになれば、外へ出るようになる。
階段を使えるようになれば、今まで行かなかった2階へ行くようになる。
長く座れるようになれば、趣味を再開するかもしれない。
つまり、
身体機能が変わると、その人の行動が変わる。
行動が変われば、体に求められるものも変わります。
だから、以前と同じ評価のままでは足りなくなることがあります。
もう一度、麻雀ができるようになった患者さん
以前、私が施術していた患者さんで、麻雀が好きな方がいました。
その方は心臓に持病があり、長時間座っていると苦しくなることがあったため、大好きだった麻雀ができなくなっていました。
ところがある時、患者さんがものすごく嬉しそうに、
「この間、麻雀できたんだよ」
と話してくださったんです。
これは私も嬉しかったです。
麻雀ができたということ以上に、
その人が好きだった時間を、もう一度過ごせた。
そこが嬉しかったんですよね。
でも、施術者としては喜んで終わりではありません。
「麻雀ができた」から、次の評価が始まる
今までは、長時間座ること自体が難しかった。
それが、麻雀ができるところまで活動量が変わった。
だったら、今度はその生活に合わせて体を見直す必要があります。
長時間座った後に、どのくらい疲労が残ったのか。
途中で息苦しさはなかったのか。
翌日の状態はどうだったのか。
座っている姿勢はどうだったのか。
どこかに強い負担が出ていないか。
そして、より無理なく趣味を続けるために、施術や日常生活で何を考えた方がいいのか。
そうやって評価をやり直します。
もちろん心疾患がある方の場合、活動をどこまで行ってよいかという医学的な判断は、必要に応じて主治医に確認することも大切です。
私たち施術者が勝手に、
「もう心臓は大丈夫だから、どんどん麻雀してください」
と判断する話ではありません。
でも、
生活が変わったことを知り、その変化に合わせてもう一度体を見る。
これは施術者にもできることだと思っています。
目標を達成すると、施術の目的も変わる
これは臨床をしていて面白いところでもあります。
最初の目標が、
「家の中を一人で歩けるようになりたい」
だったとします。
それができるようになった。
すると今度は、
「玄関まで行きたい」
になるかもしれない。
それもできるようになったら、
「近所を少し歩きたい」
になるかもしれません。
さらに、
「自分で買い物に行きたい」
になるかもしれない。
患者さんができることが増えるほど、目標も変わっていきます。
だから施術者も、最初に立てた目標だけをずっと追い続けるのではなく、患者さんの生活に合わせて更新していく必要があります。
良くなった時ほど、一度フラットに見る
施術をしていて難しいのは、悪くなった時だけではありません。
良くなった時にも、思い込みは生まれます。
「できるようになった」
「じゃあ自分の施術は正しかった」
「このまま同じことを続ければいい」
そう考えたくなります。
でも私は、そこで一度フラットに戻った方がいいと思っています。
できるようになったことは喜ぶ。でも、その変化を都合よく解釈しない。
なぜできるようになったのか。
どうやってできているのか。
その動きは安定しているのか。
生活が広がったことで、新しい負担は生まれていないか。
今までとは違うリスクはないか。
そして、次にその人がやりたいことは何なのか。
そこまで見て、次の施術を考えます。
「できるようになった」は、ゴールではなく次のスタートになる
もちろん、患者さんができなかったことをできるようになった時は、一緒に喜べばいいと思います。
私も嬉しいです。
むしろ、そういう瞬間のためにこの仕事をしている部分もあります。
でも、施術者としてはその一歩先を見る。
できた。
では、どうやってできたのか。
安全に続けられるのか。
その人の生活は次にどう変わるのか。
そして、次は何を支えればいいのか。
「できるようになった」は施術の終わりではなく、その人の生活が次の段階へ進んだということ。
だから私は、そこで改めて体を評価します。
患者さんと一緒に喜びながら、施術者としては冷静に次を見る。
高齢者の施術では、この両方が大切だと思っています。

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