体を「元に戻す」という発想をやめたら、施術の見方が変わった

以前の私は、手術歴がある患者さんや、圧迫骨折などで体の構造が変わっている患者さんを見ると、

「この場所をどうにかしなければいけない」

と考えることがありました。

痛い場所が手術したところなら、そこを何とかする。

圧迫骨折したところが痛いなら、そこを何とかする。

そんな見方です。

でも今は、少し考え方が変わりました。

構造的に元に戻せないものを、元に戻そうとしなくていい。

そう考えるようになってから、むしろ自分が施術で考えられることが増えたんです。

目次

圧迫骨折した椎体を、整体で元の形には戻せない

例えば脊椎の圧迫骨折です。

圧迫骨折によって椎体が潰れ、くさび状に変形している。

その形そのものを、整体で元の椎体の形に戻すことはできません。

これは、できないものはできないと考えた方がいいと思っています。

ところが、

「圧迫骨折によって形が変わった。だから痛い」

というところだけで思考が止まってしまうと、施術者としてできることがほとんどなくなってしまいます。

形を戻せない。

だったら、

「この痛みはもうどうしようもない」

となってしまう。

でも、本当に見るところはそこだけなのでしょうか。

手術によって、元の体とは違う条件になることがある

これは圧迫骨折だけではありません。

例えば、子宮筋腫などで子宮を全摘された方。

変形性股関節症や大腿骨頸部骨折などで手術を受け、人工股関節になった方。

腰椎の手術によって、一部が固定されている方。

こうした方たちは、手術前とまったく同じ構造ではありません。

人工関節を整体で元の関節に戻すことはできません。

固定された腰椎を、こちらの都合で動かすこともできません。

摘出された臓器を元に戻すこともできません。

だったら、私はそこを無理に変えようとは考えません。

「今ある体を前提として、どうすればこの人が少しでも楽に動けるのか」

という方向に考えます。

人工股関節になった方なら、人工関節以外を見る

例えば、人工股関節置換術を受けた方がいたとします。

医療機関では人工関節そのものに問題はなく、経過も順調と言われている。

関節の動きもある程度確保されている。

でも、本人にはまだ痛みや動きづらさが残っている。

こういうケースはあります。

そんな時に、人工関節そのものを何とかしようとは考えません。

私なら、その周囲を見ます。

例えば内転筋群などに強い緊張や動きづらさが残っていないか。

骨盤はどう使っているのか。

反対側の股関節はどうなのか。

膝や足部はどうなのか。

体幹との連動はどうなのか。

歩いている時に、どこに負担が偏っているのか。

人工関節そのものではなく、その人工関節を使っている「体全体」を見る。

そう考えるようになりました。

「手術は成功したのに痛い」は矛盾ではない

患者さんから、

「手術では問題ないと言われたんです。でもまだ痛いんです」

と言われることがあります。

私は、この二つは必ずしも矛盾しないと思っています。

人工関節そのものは医学的に問題がない。

手術も予定通り行われている。

それでも、体全体としてはまだ以前からの動き方や負担の偏りが残っている可能性があります。

私自身はそういう視点から体を見ることがあります。

例えば変形性股関節症になるまで、その人が長い期間どんな立ち方や歩き方をしてきたのか。

痛みをかばっている間に、どんな動き方が身についていたのか。

手術後、その動きはどう変わったのか。

そういうところまで見ます。

人工関節になったことで股関節の構造的な問題に対して治療が行われても、

その人の体全体の使い方まで、手術した瞬間にすべて変わるわけではありません。

だから、そこには私たち施術者が考えられることが残っていると思っています。

私は患者さんにも、できないことをそのまま伝える

こういうケースでは、患者さんにも比較的はっきり説明します。

例えば、

「構造的に変わっている部分そのものを、私の施術で元の状態に戻すことはできません」

と伝えます。

その上で、

「なので私は、そこを無理に変えようとは考えていません。それ以外の部分を見ながら、今の体でどうすれば負担を減らせるかを考えます」

という話をします。

私は、この説明でいいと思っています。

できないことまで、

「整体で何とかします」

と言う必要はありません。

でも、

「変形しているから無理です」

で終わらせる必要もありません。

できないことを認めた上で、できる可能性があることを探す。

その方が私は誠実だと思っています。

子宮を全摘された方でも、同じように考える

例えば子宮を全摘された方についても、私は同じような考え方をします。

当然、摘出された子宮そのものにアプローチすることはできません。

では何を見るのか。

手術後、その人の体にどんな変化が出ているのか。

腹部の緊張はどうなのか。

呼吸はどうなのか。

体幹をどう使っているのか。

腹部と背部の筋肉の使われ方はどうなのか。

手術痕周辺はどうなのか。

そういうところを見ていきます。

私は臨床の中で、手術を境に体幹周辺の使われ方や緊張の出方が変わっているように感じるケースがあります。

もちろん、子宮を摘出したから必ず腹筋と背筋のバランスが崩れる、という単純な話ではありません。

ただ、

「手術した臓器をどうするか」ではなく、「手術を経験した今の体がどうなっているか」

を見る。

私はそこに施術者としてできることがあると思っています。

以前の私は、痛い場所をどうにかしようとしていた

今だからこういう考え方をしていますが、昔からそうだったわけではありません。

以前の私は、患者さんが、

「手術したところが痛い」

と言えば、

「手術したところをどうにかしなければ」

と考えていました。

圧迫骨折したところが痛いと言われれば、そこが気になる。

人工関節の周辺が痛いと言われれば、そこを何とかしたくなる。

でも、元に戻せない構造をずっと見ていると、

「自分には何もできない」

というところに行き着いてしまいます。

そこである時、考え方を変えました。

「元に戻せないところは、一旦置いておこう」

と。

すると、一気に見るところが増えたんです。

「できない」と認めたら、できることが増えた

股関節そのものは変えられない。

でも骨盤はどうだろう。

反対側の足はどうだろう。

体幹はどうだろう。

胸郭はどうだろう。

歩き方はどうだろう。

腰椎はどうだろう。

圧迫骨折した椎体の形は変えられない。

でも、その上下はどうだろう。

股関節はどうだろう。

体幹全体ではどう動いているんだろう。

そう考えた瞬間に、

「あ、自分がやれることっていっぱいあるな」

と思ったんです。

これは私にとって、臨床の見方がかなり変わった経験でした。

変えられないものばかり見ていると、施術者も苦しくなる

施術者は、どうしても患者さんが訴えている場所に目が向きます。

それ自体は悪いことではありません。

でも、そこが構造的にもう変えられない場所だった場合、

「ここを何とかしなければ」

という考えに縛られるほど、施術者自身も苦しくなります。

だから一度、

「ここは変えられない」

と認めてしまう。

諦めるという意味ではありません。

変えられないものと、変えられる可能性があるものを分けるんです。

すると、施術の選択肢はむしろ増えることがあります。

どこに手を伸ばすかで、臨床は変わる

これは、

「この施術法が正しい」

「あなたのやり方が間違っている」

という話ではありません。

私が大切だと思っているのは、

どこに手を伸ばすか。

ということです。

変えられない構造だけを見続けるのか。

それとも、その構造を前提として、まだ変えられる可能性がある場所を探すのか。

見方が変わるだけで、自分が考えられることはかなり増えます。

そして、自分が患者さんに貢献できる可能性も増えていきます。

体を昔の状態に戻すことだけが、施術ではありません。

今ある体を否定せず、その体でどうすれば少しでも楽に生活できるのかを考える。

私は今、そちらの方が大切だと思っています。

ここまで読んで、
何か引っかかるところがあった方へ。

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