新人スタッフに最初に教えること|筋肉の起始・停止・作用を「触れる知識」にする

前回、私はマッサージをしながら全身の状態を見ています、という話を書きました。

筋肉の緊張を触りながら、

「この人の姿勢はどうなっているんだろう」

「この関節はどちらに偏っているんだろう」

と考えていく。

では、新しく入ったスタッフに、まず何から教えるのか。

私のところでは、最初に全身の筋肉の起始・停止・作用を覚えてもらいます。

目次

筋肉の位置と作用が分からないと、姿勢を想像できない

これはかなり基本的なことですが、私はすごく大切だと思っています。

この筋肉はどこから始まって、どこについているのか。

収縮すると、どの関節をどちらに動かすのか。

ある程度ここが分かっていないと、患者さんを触った時に、

「この筋肉が緊張しているということは、体はどうなっているんだろう」

という想像がなかなかできません。

だから、まずは筋肉を覚えるところから始めます。

うちでは入社1か月後にテストをする

新しく入ったスタッフには、全身の主要な筋肉を覚えてもらいます。

そして、入社してだいたい1か月後にテストをします。

ただし、筆記試験ではありません。

私がベッドに寝て、

「じゃあ、この筋肉の起始と停止を触ってみて」

と聞きます。

なぜ筆記ではないかというと、名前や場所を頭で覚えているだけでは、臨床では使えないからです。

知っているだけではなく、実際に触れないと意味がない。

私はそう考えています。

筋肉を覚えると、マッサージ中の頭の使い方が変わる

筋肉を少しずつ覚えてくると、スタッフのマッサージも変わってきます。

今までは、

「ふくらはぎを揉んでいる」

だったものが、

「今触っているのは腓腹筋だな」

「こっちはヒラメ筋だな」

というように、筋肉を意識しながら触るようになります。

そこまできたら、次の質問をします。

「じゃあ、ここだけ硬いのはどういうこと?」

と。

横になって力を抜いているのに、なぜ硬いのか

患者さんはベッドに横になっています。

自分では特に力を入れていない。

それなのに、ある筋肉だけ明らかに緊張が強い。

そこで私は、

「これってどういうことだと思う?」

とスタッフに聞きます。

よく返ってくるのが、

「疲れているからです」

という答えです。

もちろん、それもあると思います。

運動や仕事で負担が強ければ、一時的に筋緊張が強くなることはあります。

でも、すべてを「疲労」で終わらせてしまうと、そこで思考が止まります。

例えば、特別スポーツをしているわけでもない。

ものすごく高い負荷を毎日かけているわけでもない。

それでも、いつも同じ筋肉に緊張がある。

だったら、

「なぜこの筋肉は、休んでいる時にも緊張を残しているんだろう」

と考えてみる。

ここから臨床が始まると思っています。

筋肉は、骨を動かすためについている

筋肉には起始と停止があります。

筋肉が収縮すると、その付着部同士を近づける方向に力が働きます。

だから、ある筋肉の緊張が強ければ、

「その筋肉が関わる関節や骨の位置はどうなっているだろう」

と考えることができます。

もちろん、筋肉一つだけで姿勢が決まるわけではありません。

でも、姿勢を考える一つの材料にはなります。

腓腹筋が緊張していたらどう考えるか

例えば、スタッフに腓腹筋について質問します。

「腓腹筋の緊張が強かったら、足関節はどうなりやすい?」

すると、

「底屈方向です」

と答える。

これは筋肉の作用としては正解です。

ただ、実際の体は教科書ほど単純ではありません。

腓腹筋には内側頭と外側頭があります。

では、両方同じように緊張しているのか。

それとも、内側頭側の緊張が強いのか。

外側頭側の方が強いのか。

左右差はどうか。

そこまで見ていきます。

そして、

「だったら膝や足部はどうなっているだろう」

「実際の関節位置と合っているだろうか」

と確認していく。

ここが、机の上で筋肉の作用を覚えることと、実際の臨床で使うことの違いだと思っています。

「この筋肉が硬い=この姿勢」と決めない

ここは大切です。

私は、

「この筋肉が硬いから、この骨は必ずこうなっています」

と決めるようには教えていません。

筋肉の緊張は、あくまで一つの情報です。

そこから、

「もしかしたらこうかもしれない」

と予測する。

そして、別の筋肉を触る。

関節を見る。

左右を比べる。

実際の姿勢を見る。

そうやって仮説を重ねていきます。

一つの筋肉だけで答えを出すのではなく、複数の情報をつなげる。

この考え方を身につけてもらいたいんです。

最初は「一対一」でいい

とはいえ、新人のうちから全部をつなげるのは難しいです。

最初は一対一でいいと思っています。

この筋肉はここについている。

この方向に収縮する。

だから、この関節にはこういう作用がある。

まずはそこからです。

それを何度も何度も繰り返します。

すると、そのうち、

「ここがこうなっているなら、隣の関節はどうだろう」

「こっちの筋肉も緊張しているはずじゃないか」

「反対側はどうなっているんだろう」

と自然に考えられるようになります。

点だった知識が、少しずつ線になる

最初は、本当に一つ一つです。

この筋肉。

この起始。

この停止。

この作用。

全部、別々の点です。

でも臨床で毎日触っていると、その点が少しずつつながってきます。

この筋肉がこうだから、関節はこうかもしれない。

関節がこうだから、上の筋肉はこうなっているかもしれない。

実際に触ると、その予測と一致する。

また別の患者さんでも同じようなことが起こる。

そうやって経験が増えると、点と点が線になります。

解剖学が暗記ではなく、体を読むための言葉に変わってきます。

体の見方が変わると、マッサージも変わる

筋肉をただ揉む。

それでもマッサージはできます。

でも、

「今どの筋肉を触っているのか」

「どこに付着しているのか」

「どういう作用があるのか」

「なぜここだけ緊張しているのか」

と考えながら触るようになると、同じマッサージでも得られる情報が一気に増えます。

私は、新人スタッフに高度な技術をいきなり覚えてもらうよりも、まずここを大切にしています。

起始・停止・作用を覚える。

実際に触れる。

筋緊張の違いを感じる。

そこから姿勢を予測する。

そして、実際の体と照らし合わせる。

これを繰り返す。

そうすると、人の体の見え方が少しずつ変わってきます。

ただ筋肉を揉んでいた時間が、

「この人の体はどうなっているんだろう」

と考える時間になる。

私は、新人教育ではそこが最初の大きな一歩だと思っています。

ここまで読んで、
何か引っかかるところがあった方へ。

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