今回は、個人で整体院や鍼灸院、訪問マッサージを経営している方が、初めてスタッフを雇う時に考えておいた方がよいことについて書いてみようと思います。
一人で開業して、少しずつ患者さんが増えてくる。
予約が埋まり、自分一人では対応しきれなくなる。
新規の依頼をお断りすることが増えたり、施術以外の事務作業まで手が回らなくなったりする。
そうなると、
「そろそろスタッフを一人雇った方がよいのではないか」
と考えるようになります。
これは、事業を伸ばしていく上で、とても大きな一歩です。
ただし、正社員を一人雇うということは、単に毎月決めた給与を支払えばよいという話ではありません。
社会保険。
労働保険。
有給休暇。
健康診断。
勤怠管理。
給与を決めた後の変更の難しさ。
こうしたことまで考えた上で、雇用を始める必要があります。
スタッフを雇う時に必要なのは、給与を払えるかどうかだけではありません。その人が安心して働き続けられる環境を、事業主として用意できるかどうかです。
個人事業主でも、従業員を社会保険に加入させられる
個人事業主の方の中には、
「社会保険へ加入できるのは株式会社だけではないか」
と思っている方もいるかもしれません。
しかし、個人事業所であっても、条件を満たせば従業員を健康保険や厚生年金保険へ加入させることができます。
むしろ、個人事業所でも、常時雇用する従業員数や業種などの条件によっては、社会保険への加入が義務になる場合があります。
義務の対象にならない規模の個人事業所でも、従業員の同意など所定の条件を満たし、日本年金機構の認可を受けることで、任意適用事業所として加入できる場合があります。
そのため、
「個人事業だから社会保険には入れない」
と最初から決めつけない方がよいと思います。
自分の事業所が強制加入の対象になるのか。
任意で加入できるのか。
採用するスタッフが被保険者になる条件を満たしているのか。
このあたりは、近くの年金事務所や社会保険労務士へ確認するのが確実です。
求人に「社会保険完備」がないだけで、候補から外される
社会保険へ加入したいと考えている求職者は、かなり多いと思います。
特に、長く安定して働きたい方や、家族の生活も考えて就職先を探している方にとって、社会保険の有無は重要です。
求人票を見た時に、
「社会保険完備」
と書かれていなければ、その時点で候補から外されることがあります。
院の考え方や施術内容、給与、休日が魅力的でも、社会保険がないと分かった瞬間に応募をやめる方もいます。
経営者側からすると、社会保険料は大きな負担です。
しかし、求職者側からすれば、病気や老後などに備える重要な制度です。
単に、
「保険料が高いから入りたくない」
という経営者側の都合だけで判断すると、採用できる人材の範囲を自分から狭めることになります。
どのような人に来てほしいのか。
その人が長く安心して働くために何が必要なのか。
そこまで考えて、社会保険への加入を検討した方がよいと思います。
月給25万円のスタッフに必要なのは、25万円だけではない
初めてスタッフを雇う時に、特に注意した方がよいのが人件費の計算です。
例えば、月給25万円の正社員を採用するとします。
経営者が、
「毎月25万円の売上を増やせれば、その人の給与を払える」
と考えていたら、かなり危険です。
社会保険へ加入する場合、健康保険料や厚生年金保険料などは、従業員だけでなく事業主も負担します。
保険料率や年齢、加入している健康保険、地域などによって金額は異なりますが、従業員の給与から引かれる分とは別に、会社側にも負担が発生します。
さらに、会社側には、
- 雇用保険料
- 労災保険料
- 通勤手当
- 健康診断費用
- 制服や備品
- 採用費
- 研修中の人件費
- 有給休暇取得時の賃金
なども発生します。
訪問マッサージであれば、移動用の自転車やバイク、保険、ガソリン代、施術道具などが必要になることもあります。
月給25万円の人を雇うのであれば、会社側の実際の負担は25万円ではありません。
給与に加えて、数万円以上の追加負担がある前提で、資金計画を立てた方がよいと思います。
手取り額は、月給だけでは判断できない
求人では、
「月給25万円」
と記載します。
しかし、スタッフが実際に受け取る金額は25万円ではありません。
健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税などが控除されます。
手取り額は、年齢、扶養家族、住民税の有無、加入する健康保険などによって変わります。
そのため、
「月給25万円なら、手取りは必ず21万円です」
と断定することはできません。
それでも、額面給与と手取りが異なることは、雇用する側も理解しておく必要があります。
求職者へ給与を説明する際には、額面と手取りを混同しないようにします。
また、経営者自身も、従業員の給与から引かれる社会保険料とは別に、会社負担分があることを忘れないようにしなければなりません。
正社員には有給休暇が発生する
スタッフを雇う時には、有給休暇の管理も必要です。
一般的な正社員の場合、雇い入れから6か月継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば、原則として10日の年次有給休暇が付与されます。
その後も、勤続年数に応じて付与日数が増えていきます。
一年半勤務した時点では11日、二年半では12日というように増えていき、一定の勤続年数以降は年20日になります。
有給休暇は、会社が余裕のある時だけ与える福利厚生ではありません。
法律上の要件を満たした労働者に発生する権利です。
そのため、
- いつ入社したのか
- いつ有給休暇が付与されたのか
- 何日付与されたのか
- 何日使用したのか
- 残りが何日あるのか
- いつ時効を迎えるのか
を管理する必要があります。
また、年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、原則として会社が年5日を確実に取得させる必要があります。
「本人が休みたいと言わなかったから、一日も取らせなかった」
では済まない場合があります。
有給休暇は、給与とは別の経営負担として考える
有給休暇を取得した日は、スタッフが施術を行わなくても賃金が発生します。
一人で働いていた時には、自分が休めば、その日の売上が減るだけでした。
しかし、雇用すると、スタッフが休んだ日に、売上が減っても給与の支払いは残ります。
訪問マッサージで担当制を採用している場合は、患者さんの日程変更や代診の調整も必要になります。
整体院や鍼灸院でも、担当スタッフの予約を別の日へ変更したり、ほかのスタッフが対応したりする必要があります。
これは有給休暇を取らせない理由にはなりません。
むしろ、スタッフが有給を取得しても運営できるように、予約や担当の仕組みを整えることが経営者の仕事です。
一人休んだだけで会社が回らない状態なのであれば、有給休暇の問題ではなく、会社の体制に問題があると考えた方がよいと思います。
勤怠を正確に記録する仕組みが必要になる
スタッフを雇えば、出勤時間や退勤時間、休憩、遅刻、早退、欠勤なども管理する必要があります。
給与を毎月固定額で支払っているからといって、労働時間を記録しなくてよいわけではありません。
残業が発生すれば、時間外労働の管理も必要です。
有給休暇の付与や出勤率を確認するためにも、勤怠の記録は欠かせません。
紙のタイムカードでも管理できますが、訪問マッサージのように直行直帰が多い働き方では、オンラインの方が管理しやすい場合があります。
私たちの会社では、Googleフォームを使い、スマートフォンから出退勤を記録できる仕組みを作りました。
スタッフは数秒で入力でき、送信されたデータは自動的に保存されます。
重要なのは、どのシステムを使うかではありません。
スタッフにも管理者にも負担が少なく、記録が正確に残る仕組みを用意することです。
一度決めた固定給を、経営者の判断だけで簡単には下げられない
スタッフの給与を決める時には、慎重に考えた方がよいと思います。
私自身、過去に給与設計で失敗した経験があります。
スタッフを採用する時には、来てもらいたい気持ちが強くなります。
少し高い給与を提示した方が応募してもらえるのではないか。
最初から条件を良くした方が、長く働いてもらえるのではないか。
そう考えることがあります。
しかし、一度労働契約で定めた固定給を、
「思っていたほど働いてくれなかった」
「ミスがあった」
「会社の売上が下がった」
という理由だけで、経営者が一方的に大きく下げることは原則としてできません。
労働条件の変更は、労働者と使用者の合意が基本です。
就業規則によって不利益な変更を行う場合にも、変更の必要性や労働者が受ける不利益、内容の相当性などから合理性が求められます。
「自分の会社だから、自分の判断で給与を変えられる」
とは考えない方がよいと思います。
ミスをしたからといって、給与を自由に減らせるわけではない
スタッフがミスをすると、経営者として腹が立つこともあります。
患者さんへ迷惑をかけた。
会社に損害が出た。
何度伝えても改善されない。
そのような時に、
「来月から給与を下げよう」
と思うかもしれません。
しかし、懲戒として減給する場合にも、就業規則上の根拠や手続きが必要であり、減給できる金額にも法律上の制限があります。
ミスがあったからといって、感情的に大きな金額を差し引くことはできません。
まずは、
- 本当に本人だけの問題なのか
- 教育が不足していなかったか
- マニュアルや確認体制に問題がなかったか
- 同じミスが起きない仕組みを作れるか
- 就業規則でどのように定めているか
を確認する必要があります。
スタッフの問題を、給与を下げることだけで解決しようとすると、関係性も組織も悪くなりやすいと思います。
固定給と賞与の設計は、最初に決めておく
私自身は、固定給を必要以上に高くしすぎず、会社の業績や本人の評価を賞与へ反映できる設計の方が、経営上は調整しやすいと感じています。
ただし、賞与であれば、経営者の気分で自由に増減できるという意味ではありません。
就業規則や雇用契約書に、
「毎年必ず何か月分を支給する」
と定めていれば、会社側に支払い義務が生じる可能性があります。
賞与を業績や評価に応じて決めたいのであれば、
- 会社の業績
- 本人の勤務成績
- 評価期間
- 支給日に在籍していること
- 賞与を支給しない場合があること
などを、就業規則や賃金規程にどう定めるか検討する必要があります。
固定給を抑えすぎれば、求職者から選ばれません。
反対に、将来も支払い続けられない固定給を提示すれば、会社が苦しくなります。
採用したい気持ちだけで決めず、継続して支払える金額を基準に考えることが大切です。
正社員を雇うなら、健康診断も必要になる
常時使用する労働者を雇う場合には、雇い入れ時の健康診断や、原則として一年以内ごとに一回の定期健康診断を実施する必要があります。
健康診断の費用は、法律に基づいて事業者に実施が義務づけられているものであるため、事業者側が負担すべきものとされています。
特別に高額な検査コースを用意する必要はありません。
法定の検査項目を満たす健康診断を受けてもらえばよいので、事前に医療機関へ内容や費用を確認しておくとよいと思います。
また、健康診断の結果についても、必要な記録を作成し、所定の期間保存する必要があります。
健康診断を休日に受けてもらうこと自体は、労使間での取り決めによる部分があります。
ただし、会社が義務として受けてもらう健康診断ですから、スタッフへ一方的に負担を押しつけるのではなく、勤務時間や賃金の扱いも含めて、受診しやすい運用を考えた方がよいと思います。
労災保険は、訪問施術では特に重要になる
スタッフを一人でも雇えば、原則として労働保険の手続きが必要になります。
労働保険には、労災保険と雇用保険があります。
訪問マッサージでは、自転車やバイク、車などで移動することがあります。
訪問先へ向かう途中で転倒した。
交通事故に遭った。
施術道具を運ぶ際にけがをした。
このように、業務中や通勤中にけがをした場合には、労災保険の対象になる可能性があります。
「事故が起きてから手続きを考える」
では遅いです。
雇用を始める段階で、労災保険や雇用保険の手続きを確認しておく必要があります。
また、スタッフが業務中に事故を起こさないように、移動手段の選び方、保険、安全教育、悪天候時の対応なども考えなければなりません。
社会保険には、医療費以外の役割もある
社会保険というと、病院へ行った時の医療費負担を軽くする制度という印象が強いかもしれません。
しかし、健康保険には、一定の条件を満たした被保険者が、業務外の病気やけがで働けなくなった時に利用できる傷病手当金があります。
傷病手当金は、業務外の病気やけがによって仕事ができず、連続する三日間を含め四日以上休み、十分な給与を受けられない場合などに支給対象となる制度です。
仕事中や通勤中のけがであれば、基本的には労災保険の範囲になります。
このように、社会保険や労働保険には、スタッフが万が一働けなくなった時に、生活を支える役割があります。
社会保険料は、会社にとって確かに負担です。
しかし、その負担だけを見て、制度の意味を無視するべきではないと思います。
雇用契約書や就業規則も必要になる
正社員を採用する際には、給与や休日を口約束だけで決めない方がよいと思います。
労働条件通知書や雇用契約書を作り、少なくとも、
- 契約期間
- 就業場所
- 業務内容
- 始業・終業時刻
- 休憩時間
- 休日・休暇
- 給与額と支払日
- 時間外労働の有無
- 退職に関する事項
などを明確にします。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が必要です。
10人未満であっても、会社のルールを明確にするために、早い段階から就業規則や社内規程を作っておく価値はあります。
問題が起きてからルールを作ると、特定のスタッフを狙って作ったように受け取られることがあります。
何も起きていない時に、会社としての基本的な考え方を決めておく方がよいと思います。
スタッフ一人を雇うと、経営者の仕事が変わる
一人で働いている時には、自分が納得していれば、それで済むことが多くあります。
何時まで働くか。
いつ休むか。
売上が少ない月に、いくら自分の生活費を取るか。
すべて自分で決められます。
しかし、スタッフを雇えば、そうはいきません。
給与は決めた日に支払わなければなりません。
売上が少ない月でも、スタッフの生活があります。
有給休暇を管理しなければなりません。
事故や病気が起きた時の対応も必要です。
教育や評価も行わなければなりません。
働きやすい仕組みを整える必要もあります。
スタッフを雇った瞬間から、経営者は、自分の施術だけを考える人ではいられなくなります。
スタッフの生活と将来に対しても、一定の責任を持つ立場になります。
売上が少し増えたからといって、すぐ正社員を雇わない
自分一人で忙しくなってくると、早くスタッフを雇いたいと思います。
ただし、二、三か月だけ売上が増えた状態で、すぐ正社員を採用するのは慎重になった方がよいと思います。
その売上は、今後も継続するのか。
特定の患者さんや一つの紹介経路に依存していないか。
スタッフへ渡せる患者さんは、安定して存在するのか。
研修期間中の人件費を支払えるか。
社会保険料や有給休暇を含めても、資金が残るか。
スタッフがすぐに売上を作れなかった場合、何か月耐えられるか。
そこまで計算した上で判断する必要があります。
採用してから、
「やはり給与を払うのが苦しい」
となっても、スタッフの生活があります。
簡単に給与を下げたり、辞めてもらったりできる話ではありません。
採用は、売上が増えた時の勢いではなく、継続して雇用できるかという視点で決めた方がよいと思います。
雇う前に、給与以外の費用を一覧にする
正社員を採用する前には、一人を雇った場合に必要になる費用を、一覧にした方がよいと思います。
例えば、
- 毎月の額面給与
- 会社負担の社会保険料
- 雇用保険料・労災保険料
- 交通費
- 健康診断費
- 採用広告費
- 制服・施術道具
- スマートフォンや通信費
- 車両や自転車、バイク
- 教育担当者の時間
- 賞与
- 退職金制度を設ける場合の費用
などです。
年間でいくらかかるのかを出し、それでも会社に利益と現金が残るかを考えます。
月給だけを見ていると、雇用後に想定外の支出が多いことへ気づきます。
採用する前に気づけば計画を変更できます。
採用した後に気づくと、スタッフへしわ寄せがいきます。
社会保険は、費用だけでなく採用力として考える
社会保険へ加入すれば、会社の負担は増えます。
それでも、社会保険があることで応募してくださる人が増える可能性があります。
安心して長く働けると思ってもらえる。
家族にも就職先として説明しやすくなる。
病気やけがへの備えがある。
将来の厚生年金にもつながる。
こうした条件は、求職者にとって大きな意味があります。
目先の保険料だけを見れば、高いと感じます。
しかし、社会保険がないことで、採用したい人から選ばれないのであれば、それも会社にとって損失です。
社会保険は、単なる経費ではありません。
スタッフの安心と、会社の採用力を作るための費用でもあります。
初めて雇用する時こそ、専門家へ確認する
社会保険や労働保険、給与、有給休暇、就業規則などは、インターネットやAIでも概要を調べられます。
私自身も、分からないことを調べながら仕組みを整えてきました。
ただし、労務に関する制度は、事業所の人数、労働時間、雇用形態、業種などによって扱いが変わります。
また、法律や保険料率が改正されることもあります。
そのため、実際に採用する際には、年金事務所、労働基準監督署、ハローワーク、社会保険労務士などへ確認した方がよいと思います。
一度手続きを間違えると、後からさかのぼって保険料を支払うことになったり、労働者とのトラブルになったりする可能性があります。
専門家へ支払う費用を惜しんだ結果、さらに大きな負担が発生することもあります。
スタッフを雇うことは、売上を増やすためだけではない
スタッフを雇えば、自分一人では対応できなかった患者さんへ施術を届けられます。
会社として、より多くの方のお役に立てるようになります。
自分が休んだ時にも、すべての売上が止まらない会社へ近づけます。
スタッフが成長すれば、自分にはない考え方や強みが会社に加わります。
雇用には、大きな可能性があります。
一方で、スタッフは売上を作るための道具ではありません。
給与を支払い、社会保険や有給休暇を管理し、安心して働ける環境を作る必要があります。
固定給は簡単には変えられません。
健康診断や労働保険も必要です。
その責任を理解した上で雇用するからこそ、良い組織を作れるのだと思います。
正社員を一人雇う時に考えるべきなのは、その人がいくら売上を作れるかだけではありません。
その人を会社として守り、成長してもらい、長く働ける状態を作れるかどうかです。
一人でいっぱいいっぱいになったから、すぐに人を雇う。
それではなく、給与以外に必要な費用や制度まで理解し、継続して雇用できる準備をする。
その上で採用することが、スタッフにとっても、経営者にとっても、患者さんにとってもよい結果につながると思っています。

ここまで読んで、
何か引っかかるところがあった方へ。
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整体院・訪問マッサージ・鍼灸院などの現場で感じてきたことをもとに、
体の不調や症状について、
「どう捉えるか」という前提の話を書いています。
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考え方の話を続けています。
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