個人で仕事をしている時には、理念というものをそこまで意識しなくても、ある程度はやっていけると思います。
自分の中に、
「こういう仕事をしたい」
「患者さんにはこう向き合いたい」
「こういう会社にしたい」
という考えがあれば、自分一人なので、それに従って動けばいいからです。
わざわざ紙に書かなくてもいい。
ホームページに掲げなくてもいい。
自分の頭の中にあれば、それで会社の行動はある程度そろいます。
でも、スタッフを雇い始めると話が変わります。
自分以外の人が、会社の名前で患者さんと接するようになるからです。
そこで私は、理念というものがかなり重要になってくると思っています。
理念は、きれいな言葉を掲げるためのものではなく、スタッフが迷った時に「この会社ならどうするか」を考えるための判断基準になるからです。
個人でやっている時にも、自分なりの「信」はあると思う
開業する人には、それぞれ何かしらの考えがあると思います。
例えば、
「患者さんをとにかく第一に考えたい」
という人もいるでしょう。
「地域に必要とされる会社を作りたい」
という人もいる。
「スタッフが安心して長く働ける会社にしたい」
という人もいると思います。
逆に、
「まずはしっかり売上を作る会社にしたい」
という考えでもいいと思うんです。
ここに絶対的な正解があるわけではありません。
何を一番大切にするかは、その経営者の価値観だからです。
ただ、何を大切にする会社なのかは、自分自身では分かっていた方がいいと思います。
一人なら頭の中だけでもいい。でも人を雇うと、それでは伝わらない
一人で働いている間は、自分の判断基準を自分だけが知っていれば何とかなります。
患者さんから相談された。
自分で判断する。
クレームが起きた。
自分で考えて対応する。
少し損をするけれど患者さんのためになる選択肢がある。
自分の価値観で決める。
全部、自分の中で完結します。
でもスタッフが入ると、同じ出来事に対してスタッフも判断するようになります。
その時に、会社として何を大切にしているのかが分からなければ、それぞれが自分の価値観だけで判断します。
そうすると、少しずつ行動にばらつきが出ます。
理念は、現場で迷った時の判断基準になる
例えば、患者さんから少し難しいお願いをされたとします。
マニュアルには書いていない。
社長もその場にはいない。
でも、その場で何か判断しなければいけない。
こういうことは、現場では普通にあります。
その時に、
「会社として何を一番大切にしているのか」
が分かっていれば、スタッフ自身で考えやすくなります。
例えば会社として、
「患者さんにとって本当に必要なことを優先する」
という考えを共有しているのであれば、
「この場合、患者さんにとってどちらがいいだろう」
という方向から判断できます。
全部をマニュアルにする必要がなくなります。
理念が浸透している会社では、細かな答えをすべて教えなくても、判断の方向性をそろえやすくなります。
以前書いた「裁量を与える」という話ともつながってくる
私は、ある程度スタッフに裁量を渡した方がいいと考えています。
現場ですべて社長へ確認する会社では、スタッフ自身が考える機会が減ってしまうからです。
ただ、何も基準がない状態で、
「自由に判断していいよ」
では危険です。
そこで必要になるのが、会社としての考え方です。
何を大切にするのか。
どんな患者さんへの対応をしたいのか。
何をしてはいけないのか。
迷ったら何を優先するのか。
この土台があった上で裁量を渡す。
そうすると、スタッフは自由に判断しながらも、会社として大きく方向がずれにくくなります。
理念はスタッフのモチベーションにも影響する
もう一つ、理念には大きな役割があると思っています。
それは、働く意味です。
仕事をしていれば、当然しんどい時があります。
患者さんとのやり取りがうまくいかなかった。
忙しい日が続いた。
自分の施術が思ったような結果にならなかった。
新人教育が難しい。
人間関係で少し疲れた。
仕事なので、いいことばかりではありません。
そんな時に、
「なんのために自分はここで働いているんだろう」
という部分があるかないかは結構大きいと思っています。
理念に共感していると「もう少しやってみよう」と思えることがある
例えば、その会社が、
「患者さんを第一に考える」
ということを本当に大切にしていたとします。
そして、その考えに共感したスタッフが働いている。
その人自身も、人の役に立ちたい。
患者さんが喜んでくれることにやりがいを感じる。
そういう価値観を持っている。
すると仕事で少ししんどいことがあっても、
「でも、これが患者さんのためになるから」
と踏ん張れることがあります。
実際に患者さんが喜んでくれれば、
「やってよかったな」
と思える。
その感覚が、また仕事への活力になります。
理念というものは、会社の看板だけではなく、働いている人が「何のためにやるのか」を思い出す場所にもなると思っています。
逆に、理念と本人の価値観が合っていないと苦しくなる
ここは、かなり重要です。
どれだけ立派な理念でも、本人の価値観と合っていなければ意味がありません。
例えば、患者さんへの丁寧な対応を最優先する会社があったとします。
でも、働く本人は、
「できるだけ効率よく仕事をして、とにかく高い収入を得たい」
という価値観が一番強い。
どちらが悪いという話ではありません。
単純に合っていないんですよね。
そうすると、会社が患者さんのために時間を使おうとするたびに、
「なんでそこまでやる必要があるんだろう」
となります。
経営者は、
「なんでこの人は分かってくれないんだろう」
と思う。
お互いにしんどくなります。
売上第一の会社なら、それも一つの理念だと思う
私は、理念というと必ずきれいな言葉にしなければならない、とは思っていません。
例えば、
「とにかく利益をしっかり出す」
という会社でもいいと思います。
数字を徹底的に追う。
売上を上げる。
利益を出す。
その代わり、結果を出したスタッフへもしっかり還元する。
その考え方に共感する人はいます。
「数字で評価してほしい」
「結果を出した分だけ収入を増やしたい」
という人にとっては、むしろ分かりやすくて働きやすい会社かもしれません。
問題は、その会社が何を大切にしているのかを曖昧にしたまま、人を集めてしまうことだと思います。
売上を軸にすると、数字がモチベーションにもプレッシャーにもなる
例えば売上を一番大切にする会社では、スタッフも数字をかなり意識するようになります。
今月はいくら売った。
目標まであといくら。
誰が一番数字を作った。
その結果に応じて給与やボーナスが変わる。
数字が取れている時は、すごく分かりやすいですよね。
結果が出る。
評価される。
収入が上がる。
モチベーションにもつながります。
ただ、逆に数字が落ち始めた時には、それがそのままプレッシャーにもなります。
数字で評価される文化だからこそ、数字が出ない時には苦しくなる。
つまり、
何を理念として置くかによって、人が頑張れる理由も、逆にしんどくなる理由も変わります。
理念は「いい会社っぽく見える言葉」を選ぶものではない
理念を作ろうとすると、つい、
「社会に貢献します」
「お客様を笑顔にします」
「地域の未来を創ります」
のような、きれいな言葉を考えたくなります。
もちろん、本当にそう思っているのであればいいと思います。
でも、格好いいから選ぶものではないですよね。
もっと泥臭くてもいいと思うんです。
例えば、
「患者さんに必要ないことは売らない」
でもいい。
「スタッフが子どもの行事へ普通に行ける会社にする」
でもいい。
「地域で一番結果にこだわる施術院にする」
でもいい。
経営者自身が、本当にそうしたいと思っていること。
判断に迷った時に、そこへ戻れること。
それなら理念として意味があると思います。
理念と実際の会社が違っていたら、スタッフにはすぐ分かる
これは注意した方がいいところです。
ホームページには、
「スタッフを大切にします」
と書いてある。
でも、休みは取りづらい。
話を聞いてもらえない。
評価も売上だけ。
経営者はスタッフのことを全然見ていない。
これでは、理念は逆効果です。
スタッフからすると、
「書いてあるだけじゃん」
となります。
患者さん第一と言っているのに、現場では必要以上の商品や回数券を売ることばかり求める。
これも同じです。
掲げている理念と、実際の判断が違っていたら、スタッフはすぐに気づきます。
理念は言葉より、経営者が実際に何を選ぶかで伝わるものだと思っています。
経営者自身が理念に反する判断をすると、文化は簡単に崩れる
例えば、患者さんを第一にすると言っている会社で、経営者自身が、
「でも今回は売上になるから、とりあえずこの提案をして」
と伝えたとします。
スタッフは見ています。
「結局、患者さん第一より売上なんだ」
と思います。
それが悪いのではありません。
本当に売上を優先するのであれば、それがその会社の実際の価値観です。
ただ、言っていることと行動が違うと、スタッフは何を基準に判断していいのか分からなくなります。
理念を作る以上、経営者自身が一番その理念に縛られるくらいでいいと思っています。
理念を浸透させるには、何度も話すしかない
理念を一回説明しただけで、スタッフ全員が理解するということはなかなかありません。
採用時に話す。
入社時に話す。
ミーティングで話す。
実際に何か問題が起きた時に、
「今回は、この考え方だからこう判断した」
と話す。
そうやって、少しずつ共通の判断基準になっていきます。
私は以前、マニュアルについての記事でも、理念や使命、ビジョンはスタッフへ説明する部分だと書きました。
ただ、文章を読ませるだけでは足りません。
実際の出来事と結びつけることが大切です。
「理念だから」で押し切るのではなく、なぜ大切なのかを話す
もう一つ大切なのが、強制しないことです。
経営者が、
「これがうちの理念なんだから従って」
と押しつける。
私は、あまりいい方法だとは思っていません。
なぜこの理念になったのか。
経営者自身がどんな経験をしてきたのか。
なぜそれを大切にしたいのか。
そこまで話した方が、スタッフも理解しやすいですよね。
そして、聞いた上で、
「この考え方なら自分も一緒にやりたい」
と思う人が働く。
その方が自然だと思います。
理念に合う人を集める方が、入社後に変えようとするより楽
採用する時にも、理念はかなり役立ちます。
条件だけで採用すると、入ってから初めて価値観の違いが分かることがあります。
給与。
休日。
勤務時間。
もちろん全部大切です。
でも、
「会社として何を一番大切にしているか」
も最初から見せた方がいい。
そこで、
「私はちょっと違うな」
と思う人もいるでしょう。
それでいいと思います。
むしろ入社してから、
「なんか思っていた会社と違った」
となる方がお互いに困ります。
理念へ無理やり共感させるのではなく、最初から共感できる人と一緒に働く。
私は、その方が会社づくりとして自然だと思っています。
理念があれば、採用でも「誰を選ぶか」が分かりやすくなる
人を採用する時、資格や経験だけを見ると、なかなか決めきれないことがあります。
施術経験は十分。
技術もありそう。
受け答えもしっかりしている。
でも、この会社に本当に合うのか。
そこで理念があります。
例えば患者さんを第一に考える会社なのに、面接で話している内容が、
「どうやったら楽に働けますか」
「できるだけ責任を負いたくないです」
ということばかりであれば、少し違うかもしれません。
逆に、
「患者さんにもっとこういうことをできるようになりたい」
「施術者として成長したい」
という方なら、考え方が近いかもしれません。
理念があると、採用基準にも一本軸ができます。
理念は評価制度にもつながってくる
以前、スタッフの評価制度について書きました。
そこで、売上だけを評価すると、売上だけを追うスタッフが育ちやすいという話をしました。
では、何を評価するか。
ここにも理念が関係します。
患者さんを大切にする会社であれば、
患者さんへの対応。
施術の説明。
報告。
安全への配慮。
患者さんのために考えた行動。
こうしたものも評価する。
つまり、理念をただ壁に貼るのではなく、人事評価にも反映する。
そうすると、会社が本当に何を大切にしているのかがより伝わります。
理念は経営者自身が迷った時にも役立つ
理念は、スタッフのためだけではありません。
経営者自身にも必要だと思っています。
経営をしていると、本当にいろいろな選択肢が出てきます。
もっと利益率の高い方法。
もっと売上が上がる方法。
もっと楽に経営できそうな方法。
いろんな情報が入ってきます。
その時に、全部追いかけていたら会社の方向がどんどん変わります。
そこで、
「そもそも自分は何をしたかったんだっけ」
と戻れる場所が理念です。
以前、経営で焦らない方がいいという記事でも書きましたが、新しいやり方を知ることと、それを自社に取り入れることは別です。
理念に合うのか。
自分が作りたい会社に近づくのか。
そこから判断できます。
利益と理念は対立するものではない
ここも誤解されやすいところです。
患者さん第一という理念だから、利益を考えなくていいわけではありません。
会社が赤字で潰れてしまったら、患者さんへのサービスを続けられません。
スタッフの生活も守れません。
だから利益は必要です。
大切なのは、
「利益を出すために何をするのか」
というところだと思います。
患者さんへ必要な価値を提供して、その結果として利益を残す。
スタッフが成長して、患者さんから喜ばれて、その結果として会社が成長する。
こういう形もあります。
理念と経営数字をどちらか一つにする必要はありません。
理念は会社が大きくなるほど必要になる
一人の時は、自分自身が理念そのものです。
二人になれば、自分から一人へ伝えればいい。
三人、五人、十人と増えていくと、自分が直接すべての判断を見ることはできなくなります。
その時に、共通の考え方があるかどうか。
これはかなり大きいです。
責任者が判断する。
スタッフが現場で判断する。
新人が先輩を見て学ぶ。
その一つひとつが、会社の文化になります。
だから会社が大きくなるほど、経営者の頭の中にある価値観を、少しずつ言葉にして共有する必要が出てくると思っています。
理念は「スタッフを同じ人間にするもの」ではない
理念を共有するからといって、全員が同じ性格である必要はありません。
以前の記事でも書きましたが、スタッフにはそれぞれ長所も短所もあります。
考え方も違います。
接し方も違います。
そこは違っていいと思っています。
ただ、
「患者さんをどう大切にするか」
「会社として何をしてはいけないか」
「迷った時に何を優先するのか」
という根っこの部分だけは共有する。
その上で、それぞれの個性を出してもらう。
私は、そのくらいの組織がいいと思っています。
理念を作るなら、自分に一つ質問してみる
これから理念を作ろうとしている方で、
「何を書けばいいか分からない」
という方もいると思います。
そんな時には、難しく考えなくてもいいと思います。
まず、自分にこう聞いてみる。
「会社が大きくなっても、これだけは絶対に変えたくないものは何だろう?」
患者さんへの姿勢なのか。
スタッフへの姿勢なのか。
技術へのこだわりなのか。
地域との関係なのか。
結果へのこだわりなのか。
働き方なのか。
その答えの中に、理念になるものがあると思います。
私が理念を大切だと思う理由
理念を掲げたから、急に売上が上がるわけではありません。
採用が必ず成功するわけでもありません。
スタッフが突然優秀になるわけでもありません。
でも、少しずつ効いてきます。
採用する人を判断しやすくなる。
スタッフへ仕事を任せやすくなる。
現場での判断がそろってくる。
評価制度を作りやすくなる。
責任者を育てやすくなる。
経営者自身が迷った時にも戻れる。
そして、何より同じ価値観を大切にできる人が会社に残りやすくなります。
理念はスタッフを縛るためにあるのではなく、同じ方向を向いて働くための共通言語だと思っています。
だから私は、一人でやっている間は頭の中だけでもいいと思います。
でも、人を雇うのであれば、少しずつ言葉にしてみた方がいい。
そして、その理念へスタッフを無理やり合わせるのではなく、
「この考え方なら自分も一緒にやりたい」
と思ってくれる人を集める。
その方が、経営者もスタッフも長く働きやすい会社になると思っています。

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