整体院経営で、一人の患者さんに依存するのが危険な理由

今回は、個人で整体院や鍼灸院、訪問マッサージを経営している方に向けて、一人の患者さんへ売上を依存する危険性について書いてみようと思います。

長く仕事をしていると、自分たちのことを強く信頼してくださる患者さんが現れることがあります。

毎週欠かさず利用してくださる方。

施術を受けて体の調子が良くなったことを、周囲へ話してくださる方。

家族や友人、職場の方など、何人もの新しい患者さんを紹介してくださる方。

そのような方が現れることは、施術者として本当にうれしいことです。

自分の施術や考え方を信頼してくださり、ファンになってくださっているわけですから、当然大切にした方がよいと思います。

ただし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。

その方を大切にすることと、その方へ経営を依存することは違うということです。

目次

売上が安定すると、少し休みたくなる

個人で事業を始めたばかりの頃は、毎日必死に動くと思います。

営業へ行く。
チラシを配る。
ホームページを作る。
ブログやSNSを更新する。
紹介をお願いする。

最初は患者さんが少ないため、何とか売上を作ろうと、さまざまなことに取り組みます。

そして、少しずつ患者さんが増え、毎月ある程度の売上が立つようになると、

「これで何とかやっていけそうだ」

「少しくらい、ゆっくりしてもよいかな」

と思う時期が来ます。

それまでずっと気を張って働いてきたのですから、そう感じるのはよく分かります。

ただ、その売上が本当に安定しているのかは、一度立ち止まって確認した方がよいと思います。

まず、売上を患者さんごとに分けてみる

個人の整体院や鍼灸院、訪問マッサージの売上は、基本的には既存の患者さんの利用によって構成されていると思います。

新規の患者さんが毎月来るとしても、毎月の売上を支えているのは、継続して利用してくださっている方です。

そこで一度、既存の患者さんについて、次のようなことを確認してみてください。

  • 月に何回来院しているのか
  • 一回当たりの利用金額はいくらなのか
  • 一人当たりの月間売上はいくらなのか
  • 全体の売上に占める割合は何%なのか

特に整体院や鍼灸院の場合は、週に一回来院してくださっている方が何人いるかを確認した方がよいと思います。

週に一回、一回一万円で利用してくださる方であれば、月の売上はおおよそ四万円になります。

仮に月の売上が百万円であれば、一人で全体の約四%を占めていることになります。

さらに、週に二回来てくださる方や、回数券を継続して購入してくださる方であれば、割合はもっと大きくなります。

売上の合計金額だけを見ていると気づきませんが、患者さんごとに分けてみると、実は数人の患者さんが売上の大部分を支えていることがあります。

一番売上に貢献している方が離れたら、何%下がるのか

患者さん一人ひとりの売上比率を出したら、次に考えてほしいことがあります。

一番売上に貢献してくださっている方が、来られなくなった場合、売上は何%下がるのか。

これは、一度きちんと計算してみた方がよいと思います。

患者さんが利用をやめる理由は、施術への不満だけではありません。

入院することもあります。
引っ越しをすることもあります。
仕事や家庭の状況が変わることもあります。
経済的な事情によって、利用を続けられなくなることもあります。

訪問マッサージであれば、施設への入所や長期入院によって、突然利用が終了することもあります。

これらは、こちらがどれだけ丁寧に対応していても防げないことです。

また、長く信頼してくださっている患者さんであっても、離れることはあります。

こちらに悪意がなくても、いくつかの悪い偶然が重なり、不手際が起こってしまうこともあります。

予約の間違い。
連絡の行き違い。
説明不足。
施術内容への小さな違和感。

こちらからすれば一度の失敗であっても、患者さんの中では、それまで積み重なっていた小さな不満と結びつくことがあります。

何も言わずに、そのまま離れてしまう方もいます。

一人が離れて売上の10%が減るなら、大きな問題

仮に、一人の患者さんが離れただけで、月の売上が10%以上減るとします。

これは、個人で経営している整体院や鍼灸院にとって、かなり大きな問題です。

月の売上が百万円であれば、十万円がなくなることになります。

しかし、売上が十万円減ったからといって、家賃や水道光熱費、通信費、システム利用料などが十万円分減るわけではありません。

多くの固定費は、そのまま残ります。

売上が百万円から九十万円に減ることは、単に手元に残るお金が一割減るという話ではありません。

利益の金額は、それ以上の割合で減る可能性があります。

その患者さんが毎月安定して利用してくださっていた場合、その穴を新しい患者さんで埋めるのにも時間がかかります。

一人の新規患者さんが来たからといって、すぐに毎週継続してくださるとは限りません。

何人かの新規患者さんへ来ていただき、その中から継続してくださる方を増やして、ようやく元の売上へ戻ることになります。

その間にも、固定費は支払い続けなければなりません。

その方からの紹介経路まで失う可能性がある

一人の患者さんへ依存する危険性は、その方自身の売上がなくなることだけではありません。

その方が、周囲へ積極的に紹介してくださっていた場合、その紹介経路も同時に失う可能性があります。

例えば、その方が家族や友人、仕事関係の方へ、

「ここの整体院に通って、体が楽になった」

「先生がきちんと話を聞いてくれる」

と話してくださっていたとします。

その口コミによって、これまで何人もの新しい患者さんが来てくださっていた。

その場合、実際にはその方の利用金額以上に、経営へ大きな影響を与えています。

その方が離れれば、毎月の売上だけでなく、将来の新規患者さんが来る可能性まで減ってしまいます。

一人の患者さんが、売上と集客の両方を支えている状態です。

これは、表面的には非常に順調に見えます。

営業をしなくても紹介が来る。

広告費を使わなくても患者さんが増える。

既存の患者さんも毎週利用してくださる。

しかし、その中心にいる一人の方が離れた瞬間に、売上と集客の両方が弱くなる可能性があります。

その状態を、本当の意味で安定しているとは言いにくいと思います。

売上が安定したのではなく、偶然うまく回っているだけかもしれない

数か月間、自分が目標としていた売上を達成できると、

「経営が安定してきた」

と思いたくなります。

しかし、二か月や三か月、同じような売上が続いただけでは、まだ安定しているとは言えません。

その売上が、何人の患者さんによって構成されているのか。

特定の患者さんの利用回数に偏っていないか。

紹介元が一人に集中していないか。

患者さんの年齢や生活状況から考えて、急に利用が終了する可能性はないか。

新しい患者さんは毎月一定数来ているのか。

既存の患者さんが離れた時に、補える仕組みがあるのか。

そこまで確認して、初めて安定性を判断できると思います。

今の数字が良いことと、今の経営が強いことは同じではありません。

一人や数人の患者さんに支えられて数字が良く見えているだけなら、経営基盤はまだ不安定です。

順調な時にあぐらをかくか、努力を続けるか

売上がある程度できた時に、

「もう大丈夫だろう」

と思って動くことをやめるのか。

それとも、

「この売上は、まだ一部の患者さんに支えられている」

と考え、経営の努力を続けるのか。

この違いは、数年後に大きな差になります。

順調な時には、問題が見えにくくなります。

目の前の予約が埋まっていれば、新しい患者さんを増やす必要性を感じません。

紹介が続いていれば、ホームページやチラシを改善しようとも思わなくなります。

売上が目標に届いていれば、数字を細かく分析することも減っていきます。

しかし、患者さんが離れてから慌てて集客を始めても、すぐに元へ戻るとは限りません。

ホームページを作り直すにも時間がかかります。

広告を始めても、反応が出るまでには試行錯誤が必要です。

紹介を増やそうと思っても、信頼関係はすぐに作れるものではありません。

経営が順調な時にこそ、次の患者さんと出会うための準備を続けておく必要があります。

気の緩みは、患者さんにも伝わる

個人で開業して、ようやく目標の売上へ届いた。

それまで緊張しながら働いてきた分、少し休みたいと思うのは当然です。

ただし、休むことと、仕事に対する緊張感を失うことは違います。

開業当初は、患者さん一人ひとりの話を丁寧に聞いていた。

施術後の変化も細かく確認していた。

連絡にもすぐ返事をしていた。

院内の掃除や資料の準備も、細かいところまで気を配っていた。

ところが、患者さんが増え、売上も安定してきたと思うと、少しずつ対応が雑になることがあります。

説明を省く。

話を聞く時間が短くなる。

予約の確認が甘くなる。

同じ施術を流れ作業のように行う。

施術者本人は、そこまで大きく変わったつもりはないかもしれません。

しかし、長く通ってくださっている患者さんほど、以前との違いに気づきます。

「前より話を聞いてくれなくなった」

「最近、少し手を抜いているように感じる」

そう思っても、本人へ直接伝えてくださるとは限りません。

何も言わずに来院間隔が空き、そのまま来なくなることもあります。

信頼してくださっているからこそ、多少の変化は見逃してもらえると思うのは危険です。

むしろ、長く通っている方ほど、こちらの変化をよく見ています。

患者さんを増やすだけでなく、依存度を下げる

一人の患者さんへの依存を減らすために、必ずしも大幅に売上を増やさなければならないわけではありません。

大切なのは、売上を支える患者さんの数と、集客経路を少しずつ増やすことです。

例えば、一人の患者さんが月に十万円利用してくださっている状態から、その方の利用を減らす必要はありません。

その方を大切にしながら、月に二万円から四万円利用してくださる患者さんを複数増やしていく。

その結果、全体の売上が増えれば、一人の方が占める割合は自然に下がります。

紹介経路についても同じです。

一人の患者さんからの紹介だけに頼るのではなく、

  • ほかの患者さんからの紹介
  • ホームページ
  • Googleマップ
  • ブログやSNS
  • チラシやパンフレット
  • 地域の事業者やケアマネジャーからの紹介

など、複数の入口を持つようにします。

どれか一つが止まっても、事業全体が大きく揺れない状態を作ることが大切です。

毎月、一度は売上の構成を確認する

個人で経営していると、日々の施術に追われ、数字の確認が後回しになりがちです。

しかし、月に一度でもよいので、患者さんごとの売上を確認した方がよいと思います。

難しい経営分析をする必要はありません。

まずは、次の三つを確認するだけでも十分です。

  • 売上上位の患者さんは誰か
  • 上位一人、三人、五人で売上の何%を占めているか
  • その方々が離れた場合、固定費を支払えるか

さらに、紹介元も記録しておくと、誰からの紹介に偏っているかが分かります。

数字を出してみて、

「この方が離れたら、かなり厳しい」

と感じたのであれば、それは不安になるための数字ではありません。

今のうちに対策を始めるための数字です。

患者さんが実際に離れてから気づくより、ずっとよいと思います。

ファンになってくださる患者さんは、大切にしてよい

ここまで、一人の患者さんへ依存する危険性について書いてきました。

だからといって、長く利用してくださる方との関係を薄くした方がよいという話ではありません。

信頼してくださる方は、これからも大切にした方がよいと思います。

柔軟に対応できる時には対応する。

紹介してくださった時には、きちんと感謝を伝える。

体の状態や生活の変化を、丁寧に確認する。

その方が自分たちを信頼してくださっていることを、当たり前だと思わない。

それは、事業を続けていく上でとても大切なことです。

ただ、その方がいるから営業をやめる。

その方が紹介してくれるから、ほかの集客方法を持たない。

その方が売上を支えてくれるから、数字を分析しない。

そこまでいくと、感謝ではなく依存になります。

売上が良い時ほど、経営を止めない

個人の整体院や鍼灸院、訪問マッサージにとって、本当の意味で売上が安定するまでには時間がかかります。

二か月、三か月と目標の数字が続いただけでは、まだ十分ではありません。

一人の患者さんが離れても、大きく売上が崩れない。

一つの紹介経路が止まっても、新しい患者さんが来る。

既存の患者さんを大切にしながら、新しい患者さんとの出会いも作れている。

その状態になって、ようやく少しずつ経営が安定してきたと言えるのだと思います。

売上が悪い時に努力するのは、誰でもできます。

困っているので、動かざるを得ないからです。

難しいのは、売上が良い時にも努力を続けることです。

順調に見える時に数字を確認し、まだ弱い部分を探し、次の準備をする。

そこが、数年後も安定している事業と、一度の変化で大きく崩れてしまう事業の分かれ道になると思います。

信頼してくださる患者さんには感謝する。しかし、経営は一人の患者さんに預けない。

患者さんとの関係を大切にしながら、経営者としては冷静に売上の構成を見ることが必要だと思っています。

ここまで読んで、
何か引っかかるところがあった方へ。

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整体院・訪問マッサージ・鍼灸院などの現場で感じてきたことをもとに、
体の不調や症状について、
「どう捉えるか」という前提の話を書いています。

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