スタッフから、
「ここは働きやすいです」
と言ってもらったことがあります。
ありがたいなと思いながら、じゃあ具体的に何が働きやすいんだろうと思って聞いてみたんですよね。
すると、そのスタッフが言ってくれたのが、
「ある程度、自分で判断させてもらえるところです」
ということでした。
私はそれを聞いて、
「ああ、確かにそうかもしれないな」
と思いました。
うちは訪問マッサージという仕事柄、スタッフが患者さんのお宅へ一人で伺います。
経営者である私が、常に横にいて状況を確認できるわけではありません。
そして現場では、その場で判断しなければならないことが結構あります。
だから私は、ある程度仕事に慣れてきたスタッフには、細かいことまですべて確認を取らせるのではなく、本人の判断に任せるようにしています。
最初から何でも自由に任せるわけではありません。
ただ、信頼できる範囲が広がったら、その分だけ裁量も広げていく。
今は、そんな形でスタッフと接しています。
中途採用のスタッフから「判断を任せてもらえる」と言われた
私がこれまで採用してきたスタッフは、新卒採用が一人で、それ以外は基本的に中途採用です。
つまり、ほとんどのスタッフが以前に別の職場で働いた経験があります。
そんなスタッフから、
「ここは働きやすい」
と言われると、以前の職場との違いも含めた感想なんだと思います。
そこで話を聞いてみると、
「いちいち全部確認しなければならないわけではなく、自分で考えて判断できる」
という部分が大きいようでした。
私は特別、
「スタッフへ裁量を与える会社を作ろう」
と最初から格好よく考えていたわけではありません。
訪問という仕事を考えると、自然とそうなった部分も大きいです。
訪問の現場では、経営者がすべてを把握することはできない
訪問マッサージでは、スタッフがそれぞれ患者さんのお宅へ伺います。
患者さんの体調。
ご家族からの相談。
ケアマネジャーからの話。
いつもと違う患者さんの様子。
訪問時間の調整。
その場でしか分からないことがたくさんあります。
例えば患者さんから、
「今日は少し体調が悪いんです」
と言われた時。
施術を通常通り行うのか。
少し内容を軽くするのか。
場合によっては中止した方がいいのか。
毎回私へ電話して、
「どうしましょうか」
と聞いていたら、現場が回りません。
だから最終的には、その場にいる施術者が考えて判断する必要があります。
ただし、新人の頃から全部任せるわけではない
もちろん、入社した初日から、
「全部好きに判断していいですよ」
ということではありません。
それは、さすがに危険です。
その人がどういう考え方をするのか。
患者さんにどう接するのか。
どの程度のことまで自分で判断できるのか。
何かあった時に、ちゃんと報告してくれる人なのか。
そこは、研修期間や日頃の仕事を通じて見ています。
私の中では、スタッフごとに、
「この人なら、ここまでは本人に任せて大丈夫」
という線があります。
当然、その線は全員同じではありません。
経験も違います。
性格も違います。
判断の癖も違います。
だから、一律に、
「入社半年でここまで任せる」
と決めているわけではありません。
そもそも採用した時点で、ある程度は信頼している
以前、ある経営者の方から、
「なんでそんなにスタッフへ任せられるんですか?」
と聞かれたことがあります。
その質問の気持ちは、すごく分かります。
経営者からすると、スタッフが判断を間違えれば、最終的に会社の責任になります。
患者さんからクレームが入る可能性もあります。
事故につながる可能性もあります。
だから、全部自分で確認したくなる気持ちも分かります。
ただ、私の場合は、そもそも採用した時点で、その人をある程度信頼しています。
面接をして、
「この人なら一緒に働けそうだな」
「患者さんを任せても大丈夫そうだな」
と思ったから採用しているわけです。
もちろん、面接だけですべて分かるわけではありません。
だから研修期間があります。
そこで行動や考え方を見て、さらに信頼できる範囲を確認していきます。
採用したのに、最初から何も信用しないというのは、私は少し違うと思っています。
任せる範囲は、スタッフによって違っていい
同じ会社で働いていても、任せられる範囲は人によって違います。
例えば、患者さんへの施術判断は安心して任せられる。
でも、金銭に関わる判断は一度確認してほしい。
あるスタッフは、ご家族とのやり取りまでかなり安心して任せられる。
別のスタッフは、そこはまだ少しフォローが必要。
そんな違いがあっていいと思っています。
全員へ同じ裁量を与える必要はありません。
逆に、全員を同じように細かく管理する必要もありません。
大切なのは、その人が今どのくらい判断できるのかを見て、任せる範囲を調整することです。
判断を任せると、スタッフ自身に責任感が出てくる
ある程度、本人へ判断を任せるメリットの一つは、責任感が生まれることだと思っています。
毎回、
「社長に聞いてから決めます」
という仕事であれば、自分は判断していません。
極端に言えば、
「言われた通りにやりました」
で終わります。
でも、
「これは自分で判断していい」
となると、本人も考えます。
この患者さんにとって何がいいんだろう。
会社として、この対応でいいだろうか。
あとで報告した方がいいだろうか。
そうやって、一つひとつの仕事への向き合い方が変わります。
裁量を渡すということは、自由を渡すだけではなく、考える責任も一緒に渡すことだと思っています。
全部確認する会社では、自分で考える力が育ちにくい
スタッフの失敗が怖いから、全部経営者が判断する。
それも一つのやり方だと思います。
ただ、それをずっと続けていると、スタッフ自身が判断する機会がなくなります。
何か起きる。
社長に確認する。
答えをもらう。
言われた通りに動く。
これを繰り返していると、スタッフからすれば、その方が楽になってしまいます。
自分で考えて間違えるより、社長に聞いた方が安全ですからね。
その結果、経営者は、
「なんでうちのスタッフは自分で考えないんだろう」
と思う。
でも、自分で考える機会を全部取り上げていたのであれば、それは当然でもあります。
ミスは起こる前提で考えている
スタッフへ判断を任せたら、当然ミスが起こる可能性があります。
私は、そこは最初からある程度覚悟しています。
というより、
人を育てるのであれば、ミスは起きるものだと思っています。
もちろん、患者さんの命や重大な事故につながるようなことは、起こさないための教育やルールが必要です。
何でも失敗させればいいという話ではありません。
ただ、日常の小さな判断まで、
「絶対に間違えてはいけない」
としてしまうと、本人が自分で考える機会を失います。
間違えた。
そこで、
「なぜその判断をしたの?」
と確認する。
本人の考え方を聞く。
そして、
「そういう考え方も分かるけど、今回はこう考えた方がよかったね」
と伝える。
私は、このやり取りをかなり大切にしています。
失敗した時の方が、本人の中に残りやすい
これまでスタッフを見てきて感じるのは、自分で一度判断して、そこで間違えた時の方が、学びが深く残るということです。
最初から、
「この場合はAを選んでください」
と言われただけだと、覚えていても、なぜAなのかまでは理解していないことがあります。
でも、自分ではBだと思った。
実際にBを選んだ。
その後、
「今回はAの方が良かった」
とフィードバックを受ける。
その時に初めて、
「ああ、そういうところまで考えるのか」
となります。
この経験は、かなり残ります。
次に似た状況が起こった時には、自分で修正できます。
私は、ミスそのものより、ミスした後に何を学ぶかの方が大切だと思っています。
だから、報告してくれる関係は絶対に壊したくない
裁量を与えるうえで、私がすごく大切だと思っていることがあります。
それは、何かあった時に報告してくれることです。
判断を間違えること自体より、問題を隠される方が怖いです。
だから、スタッフから、
「こういうことがあって、私はこう判断しました」
と報告が来た時には、まず内容を聞きます。
そこで毎回、
「なんでそんな判断したの?」
「そんなことも分からないの?」
と強く責めていたら、次から報告しなくなります。
スタッフからすれば、言わない方が怒られないからです。
それでは、会社としてもっと危険になります。
だから、判断の修正はします。
ただ、報告してくれたこと自体は大切にします。
フィードバックするのは、行動より判断した理由
私がスタッフへフィードバックする時に意識しているのは、
「こうしてください」
だけで終わらせないことです。
例えば、ある出来事があって、スタッフがAという対応をした。
私ならBを選ぶ。
その時に、
「次からBにしてください」
だけではなく、
「私はこういう理由でBを選ぶよ」
と伝えます。
なぜ患者さんにとってその方がいいのか。
なぜ会社としてその判断をしているのか。
何を優先して考えたのか。
そこまで伝えます。
以前の記事でも書きましたが、私はスタッフ教育では「捉え方」をかなり大切にしています。
判断の根っこが分かれば、別の場面でも応用できるからです。
判断の基準が似てきたら、フィードバック自体が減っていく
スタッフへ毎回フィードバックを続けていると、だんだん判断の仕方が似てきます。
何か起きた時に、
「あ、この場合だったら、このスタッフはこう判断するだろうな」
という予測ができるようになります。
そして実際に報告を聞いて、
「うん、自分もそうすると思う」
ということが増えてきます。
そこまで来たら、私は細かく口を出さなくなります。
ほとんど本人へ任せます。
必要なことだけ共有してもらう。
それで十分になります。
スタッフからすると、自分で仕事を動かせる範囲が増えます。
私からしても、全部の判断を自分でしなくて済みます。
お互いに楽になります。
任せるとは、放置することではない
ここは、少し間違えやすい部分だと思います。
「スタッフへ任せています」
という経営者の中には、単純に何も見ていないケースもあります。
それは、裁量というより放置です。
私は、任せる前にはその人を見ています。
研修期間で見る。
患者さんへの接し方を見る。
報告の仕方を見る。
何か起きた時の判断を見る。
そして、任せた後も必要な報告は受けます。
間違っていればフィードバックします。
その積み重ねがあって、少しずつ確認する量を減らしていきます。
「信頼しているから見ない」のではなく、「見てきたから信頼して任せられる」という方が、私の感覚には近いです。
任せられない原因が、経営者側にあることもある
経営者から、
「スタッフに任せるのが怖い」
という相談を受けることがあります。
もちろん、本当にまだ任せられる状態ではないスタッフもいます。
ただ、経営者側が、
「自分と全く同じ方法でやらなければ嫌だ」
となっていることもあります。
例えば、最終的な結果は同じ。
患者さんにも迷惑をかけていない。
会社のルールも守っている。
でも、自分なら違う順番でやる。
それだけで、
「やり方が違う」
と修正してしまう。
これを続けると、スタッフは、
「結局、社長のやり方を当てるゲームなんだ」
となります。
それでは裁量は生まれません。
目的と守るべき線が合っていれば、やり方は違ってもいい
私は、全部が自分と同じである必要はないと思っています。
患者さんを大切にする。
安全を守る。
会社として必要な報告をする。
患者さんに不利益が出るような判断をしない。
こうした大切な部分が同じであれば、細かなやり方は違っていてもいい。
むしろ、その方がスタッフそれぞれの個性が出ます。
私より説明が上手なスタッフもいます。
私より細かく患者さんへ気を配れるスタッフもいます。
自分と違うからこそ、良い部分もあります。
経営者のコピーを作ることが、スタッフ教育ではないと思っています。
裁量を与えるためには、会社の価値観を共有しておく必要がある
スタッフへ判断を任せたいのであれば、会社として何を大切にしているのかは、普段から共有する必要があります。
私のところであれば、根本にあるのは、患者さんを大切にすることです。
迷った時には、患者さんにとってどちらがいいのかを考える。
安全面で少しでも不安があるなら無理をしない。
自分で抱え込んでいい問題なのか、会社へ共有した方がいい問題なのかを考える。
そうした基本の考え方を日頃から伝えています。
すると、経験したことがない問題が起きても、判断しやすくなります。
細かなマニュアルがなくても、会社としての判断基準が分かっているからです。
マニュアルですべて決めるより、判断できる人を育てたい
もちろん、マニュアルは必要です。
事故が起きた時。
遅刻した時。
患者さんから特定の連絡を受けた時。
全員が同じように対応した方がいいものは、ルール化した方がいいです。
ただ、現場で起こることすべてをマニュアルにはできません。
特に、人を相手にする仕事では無理があります。
患者さんも違います。
ご家族も違います。
体調も毎回違います。
だから最終的には、考えて判断できるスタッフを育てる必要があります。
そのためには、本人に実際に判断してもらう経験が必要です。
裁量を与えると、仕事そのものが少し面白くなる
スタッフから「働きやすい」と言ってもらえた理由を聞いて、私自身も改めて考えました。
人は、全部決められた通りに動くだけよりも、ある程度自分で考えられる方が、仕事をしやすいのかもしれません。
自分で考える。
自分で判断する。
その結果、患者さんに喜んでもらえる。
何かうまくいかなければ、振り返る。
次はもっと良い判断ができる。
そうすると、単純に決められた作業をこなすだけではなくなります。
仕事の中に、自分の考えが入ります。
それは、働く面白さにもつながると思っています。
任せるためには、経営者側にも覚悟が必要
スタッフへ裁量を与えるというと、スタッフ側の責任ばかりに目が向きます。
でも、経営者側にも覚悟が必要です。
任せた以上、ある程度のミスは起こる。
自分と違う判断をすることもある。
遠回りすることもある。
そこを全部許せないのであれば、結局は任せられません。
もちろん、会社として許容できないラインは必要です。
ただ、そのラインの内側では、
「一度自分でやってみて」
と言えること。
それが人を育てるうえでは必要だと思っています。
スタッフの判断ミスは、教育内容を増やす材料にもなる
スタッフが判断を間違えた時、経営者からすると、
「また仕事が増えた」
と思うかもしれません。
でも私は、
「あ、この考え方はまだ伝わっていなかったんだな」
と見ることもあります。
つまり、会社としての教育不足が見つかったということです。
本人に伝える。
必要であれば他のスタッフにも共有する。
重大なものならルールにする。
そうすれば、その一回のミスから会社全体が一つ強くなります。
この考え方は、以前の記事で書いた「問題の受け取り方」ともつながっています。
問題が起きた。
じゃあ、会社を一つ良くする材料にする。
それでいいと思っています。
「自分で考えられるスタッフ」は、最初からいるわけではない
経営者としては、
「自分で考えて動ける人を採用したい」
と思います。
私もそうです。
でも、自分で考えて動けるスタッフというのは、採用した時点ですべて完成しているわけではありません。
判断する。
失敗する。
フィードバックを受ける。
また判断する。
少しずつ任される範囲が増える。
この繰り返しによって育っていきます。
それなのに、ミスした瞬間にすべての裁量を取り上げてしまったら、いつまで経っても自分で考えられる人にはなりません。
任せる範囲が増えること自体が、スタッフへの評価にもなる
給与や役職だけがスタッフへの評価ではないと思っています。
「この仕事はもう任せられる」
「ここは確認しなくても大丈夫」
「この患者さんなら、あなたの判断に任せるよ」
そう言われることも、本人にとっては一つの評価です。
信頼されていると感じます。
そして、信頼されていると分かれば、
「ちゃんとしなきゃ」
という責任も生まれます。
私は、信頼と責任はセットだと思っています。
細かく管理しなくても回る会社を作るために
経営者が、スタッフ一人ひとりの行動をすべて確認する会社には限界があります。
二人ならできます。
三人でも何とかなるかもしれません。
でも、人が増えるほど難しくなります。
だから、会社を少しずつ大きくしたいのであれば、どこかで、
「自分が判断する会社」
から、
「スタッフ自身が判断できる会社」
へ変えていかなければなりません。
そのために必要なのは、単純に、
「自由にやっていいよ」
と言うことではありません。
まず見る。
少し任せる。
報告してもらう。
判断理由を確認する。
フィードバックする。
また任せる。
その範囲を少しずつ広げていく。
この繰り返しです。
私がスタッフへ裁量を渡す時に考えていること
私自身のやり方を整理すると、だいたいこんな流れです。
- 面接の段階で、人として信頼できそうかを見る
- 研修期間で、患者さんへの対応や報告の仕方を見る
- 最初は小さな判断から任せる
- 何かあったら報告してもらう
- 結果だけではなく、なぜその判断をしたのかを確認する
- 必要なら、私ならどう考えるかを伝える
- 判断基準が似てきたら、確認する範囲を減らす
- 最終的には、その人にほとんど任せる
特別な方法ではありません。
ただ、スタッフへ裁量を与えたいのであれば、最初から信用するか、まったく信用しないかの二択ではないと思っています。
信頼できる範囲を少しずつ増やしていけばいいんです。
信頼して任せるからこそ、信頼できるスタッフへ育っていく
スタッフへ仕事を任せることに不安を感じる経営者は多いと思います。
ミスされたらどうしよう。
患者さんからクレームが来たらどうしよう。
自分なら違う判断をする。
そう考えると、全部自分で決めたくなります。
その気持ちはよく分かります。
ただ、すべて経営者が判断している限り、スタッフが自分で判断できるようになる日は来ません。
どこかで、一度任せなければならない。
そして、任せれば多少のミスは起こる。
そのミスを責めるだけではなく、判断を一緒に振り返る。
そこで考え方を共有する。
また任せる。
この繰り返しです。
裁量を与えるということは、スタッフを放っておくことではありません。
信頼しながら判断する経験を渡し、失敗した時には一緒に修正していくことだと思っています。
それを繰り返していくと、少しずつこちらの判断基準を理解してくれます。
そして最終的には、私がそこにいなくても、
「自分だったら、たぶんこうするな」
と思うような対応を、スタッフ自身がしてくれるようになります。
そこまで来ると、本当に頼もしいです。
経営者自身も全部を抱え込まなくて済みます。
スタッフ自身も、自分で考えながら仕事ができます。
スタッフから「働きやすい」と言ってもらった理由を聞いて、改めて、任せることの大切さを感じました。
私はこれからも、何でも管理する会社ではなく、信頼できる範囲を少しずつ広げながら、スタッフ自身が判断できる会社を作っていきたいと思っています。

ここまで読んで、
何か引っかかるところがあった方へ。
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整体院・訪問マッサージ・鍼灸院などの現場で感じてきたことをもとに、
体の不調や症状について、
「どう捉えるか」という前提の話を書いています。
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考え方の話を続けています。
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